最初の情報 | |
2008年10月、五反田にある「わんこ倶楽部J村」(以下、J村)で 「レンタル犬」という特殊な状況の犬たちのイヌブルセラ症の感染が明らかになった。 昨年春にオープンした浦安店とともに、この犬たちは不特定多数に貸し出され、 その行動範囲は店舗周辺に留まらず、かなり広域であるとされている。 また、トリミング・ホテル・ドッグカフェ・ドッグランなども併設されており、一般家庭犬、 犬の飼育者はもちろん、犬を飼っていない者もこのショップを利用していた。 スタッフだけでなく、不特定多数の犬およびヒトがこの犬たちとの接触の可能性が あったという点で、今まで報告されてきた繁殖場(ブリーダー)での発生とは 大きく違うと考える。 責任者(J村村長・A氏)は自身のブログ・HPなどでイヌブルセラ症が 発生したことを報告し、店舗の犬たちの検査結果についてブログで 全59頭中 陽性→18頭、疑陽性→38頭、陰性→3頭 と報告している。 会員には随時電話で連絡をしていくということだったが、会員以外の利用者や 近隣住民などにはこれ以上の情報や説明はなかった。 |
感染の理由 | |
今回イヌブルセラ症がJ村内で蔓延した理由として、A氏はブログで 「村のわんこがなぜ、こんなに、擬陽性、陽性が出たかともうしますと、獣医の 先生にお伺いしたところ、村でわんこをだしているスペース(ドッグラン内では 出しておりません)では、おトイレを共有しており、そこで、おしっこを嗅いだり、 踏んだりして、そのおしっこから、感染したのではないかといわれました。」 と書いた。 「J村は交配をしていたから蔓延したのでは?」という指摘に対して、 交配ではなく尿が原因であり、J村自身も外部の犬によって感染させられた 被害者かもしれないという事、世の中にブルセラ陽性犬が多数いてその事実に 気がつかない無知な飼い主が、尿によってブルセラ菌をまく加害者になっていると ブログ上で答えた。 J村は交配を行っていなかったのか。感染が明らかになったきっかけは J村の雄犬と、J村出身の雌犬(2年前の交配でも流産している)の 交配での流産だったとブログにははっきりと書いてある。 しかしこれは「事業としておこなってない」とも書き、交配での蔓延を否定した。 Brucella canis に関して、たしかに尿や排泄物からの感染は否定できない。 が、一番の感染経路は「交配」であり、尿中に排菌されたとしても環境中で 生存する力が弱いため、新鮮な汚染尿を大量に摂取しない限り感染の可能性は 低いだろう、というのが獣医師としての私の認識だった。 A氏の言うことが正しいとすればBrucella canis は尿から容易にうつり、 イヌの死流産を招く恐ろしい病気ということになる。 感染経路についてはその後、交配が原因である可能性が高いと指摘をうけ 感染犬たちの避妊去勢をすることを報告した。 |
情報の混乱 | |
一般的に、HPやブログなどの情報は玉石混淆であり、その真偽は情報を 受け取った者の判断に任されるものだと思っている。今回の件では、唯一 A氏とコンタクトがとれるブログで、正確な情報が伝わってこないだけでなく、 不確実な情報を小出しに流されることによって、周囲は不安を煽られている。 A氏のブログは承認制になっており、いくらコメントを投稿しても一部しか 反映されない。どこまで周囲の声が届いているのか見当がつかない。 A氏は獣医師ではないし、イヌブルセラ症に関しては獣医師によって 意見が異なるので病気自体についての情報の混乱はしかたないのかもしれない。 けれど彼はJ村の責任者として、自分の店舗で起こったこと ブログなどで発信したことに関してはきちんと責任をとる必要があるのではないか。 情報発信の手段としてインターネットやテレビ新聞などのマスコミを使ったのは A氏本人だ。自身が引き起こしたことで、社会に不安を与えていることは 明白なのだからそれに対してしっかりと責任をとってこその責任者ではないか。 |
犬たちはどうなっているのか | |
当初A氏は「イヌブルセラ抗体陽性犬を連れて山奥などで暮らす」 ということを書いていたが、「私個人の管理能力は限界があり全頭を連れて いけません。」とブログ上で里親募集をはじめた。 「このまま、みつけられなかった場合は、Jは所有権を奪われます。」 「行政の強制執行」「村のわんこの所有権が行政のかたにうつりかねません。 わんこを殺さないと約束はできないとのことでした」とブログには書いている。 陽性犬(結果がはっきりしない疑陽性も含む)の譲渡に関しては「やめてほしい」 「譲渡するならしっかりと条件を決めて、それを守らせると約束してほしい」など 色々な意見が寄せられていた。 実際にはそれらの開示はなく、疑陽性犬も続々と譲渡されており 11月4日の時点で30頭以上が一般家庭に譲渡されているようだ。 |
行政の対応 | |
行政の指導はどうなってるのだろうか。市川保健所に問い合わせをした。 「千葉県の方針としては当初から、獣医師の診断のもと"陰性犬は譲渡" "疑陽性、陽性犬は治療し、陰転してからの譲渡"ということで一貫し指導している」 この方針は東京都動物愛護センターも一緒だという。 この行政の指導に、私は非常に納得がいった。これならイヌブルセラ症の拡散を 防げる。しかし、この指導にA氏は従わないという。金銭的な問題も大きいらしい、 ということだったが行政がいくら指導をしたところで従わなければ意味がない。 「行政としては陰性犬だけの譲渡が望ましいと思っている」としか言えないという。 行政の指示に従わない業者に対しての指導や罰則はないのか、と聞いたが 「環境省や県と検討中だが、現実は難しい。」という。 動物取扱業者の資格取り消しなども、業者の資格自体が各県での 登録になっているので、他県での開業は全く規制されないという。 また、廃業してしまえば保健所が指導する事すらできなくなるというから驚いた。 |
動物取扱業 | |
東京都福祉保健局のHPに「動物取扱責任者の義務」という項目があった。 @ 自ら勤務する動物取扱業において、法等の違反がおこなわれないよう、 動物又は施設の管理に関わる者を監督する。 A 動物及び施設の管理に関しての不備又は不適切事項を発見した場合は、 動物取扱業に対して、改善を進言する。 B 都が開催する動物取扱責任者研修(法定研修)を1年に1回以上受講する。 数年前の動物愛護法の改正により動物取扱業者が登録制になり、取扱責任者を 置くことになった。悪質な動物取扱業者や、動物愛護法の違反者はこれらの仕事に つくことができないという。 動物の明らかな虐待などがなければ愛護法の違反は問われないという。 行政の指導に従わなかった程度では何の罰則もない。 動物取扱責任者研修というものの内容はわからないが、責任者としてのモラルや 衛生管理、人獣共通伝染病についての教育は行われていたのだろうか。 動物取扱業者が遵守すべき動物の管理の方法等の細目には 「販売業者、貸出業者及び展示業者にあっては、顧客等が動物に接触する場合には、 動物に過度なストレスがかかり、顧客等が危害を受け、又は動物若しくは顧客等が 人と動物の共通感染症にかかることのないよう、顧客等に対して動物への接触方法 について指導するとともに、動物に適度な休息を与えること。」という記述がある。 正しい知識を持ち、一般飼育者を指導するべき立場にある動物取扱業者が この責務を果たせないのならばそれらを管轄する行政に、動愛法にのっとり 適正飼養や衛生管理などの普及啓発を図っていただくしかない。 また、愛護法がより適正に施行されるよう、各地方自治体の連携を密にし、 動物取扱業者の指導体制や罰則を整えていただければと思う。 |